「これで社会的·経済的にも安定して心理的援助の職務を全うできる」
心理職に携わる多くの人がそう思ったでしょうか。実は現状はその逆なのです。臨床心理士では約3割、他の職種も含まれる公認心理師でも約5割のみが常勤であることが調査で分かっています。
そしてその理由のおよそ半数が「雇用機会がない」(一般社団法人日本臨床心理士会,2020;一般社団法人公認心理師協会, 2021)といったものでした。おまけに仮に運よく常勤職を得られたとして、人生を充実させるために、仕事の満足感と同様に大事な賃金が低いことも分かっています。
心理臨床における効果研究は、主に欧米で実施されています。日本での臨床は、その欧米のデータを参考にして行われています。ほとんど効果研究がされていない中、臨床研究数の比較的多い認知行動療法において、国内で実施された臨床研究のメタ分析がなされています(佐藤,丹野,2012)。
しかし、その結果も鵜呑みにはできません。と言うのは、分析の結果は「欧米と同様に効果がある」でしたが、分析対象として取り上げられた12の研究のうち10の研究が比較試験ではなかったからです。つまり、プレとポストの比較のみで、各群への無作為割り付けも統制群との比較も行われていませんでした。
分析されている研究の多くで剰余変数の統制が十分でないため「日本における認知行動療法は効果がある」とはまだ言えないでしょう。
研究数の多い認知行動療法でさえ、日本の効果研究の現状はこの通りでありますから、その他のアプローチを用いる心理臨床の効果は未だ確認されていないと推測できます。つまり、日本においては、心理臨床の効果は経験的には実証されていないと言って良いでしょう。
では臨床ではどうでしょうか。先に挙げた認知行動療法の研究では、行われた時期から察して、研究で臨床した者が全て心理学の背景を持って十分に訓練を受けていたと思われます。しかし現状はどうでしょう。
公認心理師は(仮に先のメタ分析の結論を採用するとして)それらの研究に関与した心理士たちと同じような臨床力を持っているのでしょうか。
2021年の調査では、公認心理師資格保持者の中には、臨床心理の教育や経験がない者が一定数存在することが分かっています(図3で示しているよう、例えば教論免許を持っている者が3割程度存在しています)。そういった公認心理師は、経験や知識不足のため、十分に効果を出すことは困難であると考えられます。
そして効果を出せないというのは、教育や経験のない公認心理師だけに言えることでしょうか。教育が充実している、米国のカウンセラーやクリニカル·サイコロジストと同様の効果を、総じて言って、日本の心理職は出せるのでしょうか。その疑問に答える決定的な要因として、日本の心理職にとって最先端情報が欠如しているという事実が挙げられます。
アメリカ心理学協会では科学者-実践家モデルが推奨されていますが(APA, 2022)その中核が、実証が記録された論文を読みその知見を得ることです。日本ではどうでしょう。英語を読むことが出来ない心理職は、どうやって新しい科学的知見を参考に、自らの知識や技法を向上させればいいのでしょうか。
それに加え、技法の文化的適応の問題も無視できません。認知行動療法で言っても、言語に信仰をおく欧米文化で作られた言語中心の方法が、その傾向が薄い日本の文化で、同じ効果を出せるとは考え難いと言えます(Triandis & Gelfand, 2012)。
また、個を重視し自らの問題に対してより明確な認識がある欧米の来談者と、集団を重視し自らの問題への認識がより薄い日本人の来談者と、同じ効果が出せるのかどうかは、非常に疑わしいと言えましょう(Triandis & Gelfand, 2012)。
心理臨床で今よりも大きな結果を残し、伴って職場での地位を高め、より多くの給料を得る術は存在するということです。それには、外的妥当性が高く臨床的実証があり、そして文化的適応が十分考慮された方法の学びが効果的でしょう。つまり、より幅広い(世界の)地域で臨床家に支持されており、そして日本文化において使われる方法論が確立している心理療法を学ぶということです。
その有力な1つにBrainspotting(ブレインスポッティング)が挙げられます。
BSPは神経生物学的な仮説に基づいています。ブレインスポットにアクセスすることで皮質下の活性化、また同時に身体と感情体験を抑制する無顆粒層を含む新皮質の活性化が起こることで、問題にフォーカスした高い活性化状態において身体の抑制機能を働かせ「終わっていなかったトラウマ反応を完了」させ、トラウマの影響を取り除きます。
無限大の神経の結合が人間には存在するという事実から「癒しの本質は来談者の脳にある」と仮定し、それを唯一の癒しの拠り所として信頼します。セラピストが先に立って導くのではなく、むしろ、尾が頭に必ずついていく「彗星の尾」のようになって、徹底的に来談者の処理に寄り添っていきます。それにより、来談者が生存するための本来の力を引き出し、問題の解決へと誘います。
BSPの臨床試験は始まったばかりで、十分な数のエビデンスはまだありません。ドイツでBSPの予備調査が公刊され、また数年内にスペインで、BSPの比較調査の公刊が決まっています。2つの調査はBSPが高く効果のある方法であることを示しています。
また一般にすでに公開されている根拠として、2012年に起きたアメリカ銃乱射事件の被害者ケアに関する調査結果が公開されています。乱射事件が起きたサンディ・フックのコミュニティーを対象に調査が行われた結果、BSPはソマティックエクスペリエンシング(SE)やEMDRと同様かそれ以上に効果があると感じられたということが報告されました。
始まったばかりのこれらの研究や調査から、BSPは今後十分なエビデンスを積み重ねていく潜在的可能性があると言えるでしょう。
レクチャー・デモンストレーション・実習を通じてBSPを習得します。 | |
1日目 | 視野上にトラウマを見つける最も基本的な技法、アウトサイド・ウインドウBSP
来談者のフェルトセンスからトラウマを視野上に見つけるインサイド・ウインドウBSP |
2日目 | 来談者が見つめる場所からトラウマを見つけるゲイズスポッティング 複雑な問題を抱える来談者の援助としてBSPを活用するリソースモデル |
2日目 | 来談者が見つめる場所からトラウマを見つけるゲイズスポッティング 複雑な問題を抱える来談者の援助としてBSPを活用するリソースモデル |
公認心理師/杏林大学/ブレインスポッティング国際トレーナー
実施日 | 2022年8月6日、7日(2日間に渡るトレーニングです) 時間
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会場 |
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内容 |
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受講料 | 《[早割](早期申込み):~7月7日まで》
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キャンセルポリシー | キャンセルによるご返金は以下の通りになります。
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受講資格 |
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講師 | 鈴木孝信(国際BSPトレーナー) |
主催 | ブレインスポッティグ・トレーニング・インスティチュート 日本 |
協力 | Brainspotting training Inc. |
会場 |
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